「こらぁ!!また悪さしてぇぇ!!」
「騎士子たん!そこでバッシュはだめぇぇぇ!!!」
悪ケミたんが持っていた瓶が落ちたと同時に閃光と轟音がプロンテラの街に轟く。
「ああ…一日に一回これを聞かないと落ち着かないよなぁ…」
「今日の片付け当番だけだっけ?騎士団に連絡いれとけよ」
「お、悪ケミたんのペットか。はい。これ今日の見物料ね」
わらわらと街の見物人から集められる蜂蜜・人参・いも・かぼちゃ・お肉に埋もれて、いつものように子バフォは涙を流していた。
当然、今日の夕食の心配をしなくていい涙とは違う。
「でさぁ、聞きたいことがあるんだけど?」
と騎士子たんが子バフォに尋ねたのは、貰った食料といっしょに目を回した悪ケミたんをカートに積み込もうとした時の事。
「なんであんた、悪ケミたんとつるんでいるの?」
騎士子の真摯な質問に冗談のかけらなどない。
「私が言うのも間違っていると思うけど、貴方は貴方の力を発揮する場所があるでしょ?
それを捨ててまで、なぜ悪ケミたんに尽くそうとするの?」
「それを言うなら騎士子よ。お主だってなんだかんだ言いながら、主に付き合っているではないか?」
「それもそうかもね」
苦笑する騎士子。だが、表情はすごく真面目。
「今のままの時がずっと続けばいいと思う。
悪ケミたんが悪戯をして、私がそれを叱って、貴方が嘆きながらそれを片付ける。
けど、いつかこんな幸せな時って終わりがくるのよ」
「騎士子殿。何があった?」
子バフォも真面目な声で騎士子を見つめる。
「この間枝テロの鎮圧に行ったのよ。貴方のお父さんが暴れていたわ。犠牲者もいっぱい出た。
大魔法を叩き込み、多くの騎士達が突貫しても大量の犠牲者を出した貴方の父バフォメット。
いつかは、貴方もああなるのかしら?」
悲しいのか、それとも恐ろしいのか、もしくは空しいのか、お子様な悪ケミたんには絶対できない憂いの顔で子バフォをなでる騎士子たん。
「騎士子殿。少し昔話をしよう。
我が主と知り合った時の話だ」
手に持ったかぼちゃがちょっとシュールかなと思いながら、子バフォは昔話を紡ぐ。
「我がここに呼び出されたのは枝テロだった。
すぐに倒され、あとは闇に戻ってまた世に出るのを待つだけと思っていた。
そんな時に主が現れたのだ」
目を閉じる。閉じた視野に映るのは心配そうに子バフォを見つめる悪ケミたん。
「ほっとけよ!」
「どうせまた人を襲うんだぜ!!」
周りの野次に毅然というか、甲高い声を張り上げて反論する悪ケミたん。
「ちがうもん!
この子は私の子分だもん!
私が助けるのっ!
私が助けないと子分死んじゃうもん!!」
泣きながら、周りの野次をアシッドボトルで追い散らして、泣きながら持っていたポーションを手で子バフォに塗ってやる悪ケミたん。
「……今でも主がなぜそのような事をしたのか分からぬ。
だが、我が触れたやさしさとか暖かさというのは、主がその時与えてくれたのだ。
おかげで無闇に人を殺すことができぬ。
だから、我はここにいる。
それが理由だ」
子バフォの話を聞いた騎士子たんはまるで聖母のように子バフォに微笑んだ。
「知っているか?騎士にはこんな言葉がある。
『騎士は己を知る者の為に死ぬ』
謝る。おぬしは悪魔ではない。立派な騎士だよ」
騎士子の言葉に子バフォも微笑んで、持っていたかぼちゃをカートに積もうとする。
「ぢがうもん!」
第三者の声がカートの食べ物の山から聞こえる。
ごろごろと野菜を撒き散らしながら、カートの中から悪ケミたんが登場。相変わらず間というものが分かっていない。
「子バフォはりっぱな魔族となって私と一緒に世界をせーふくするんだからぁ!
で、騎士子たんはりっぱな勇者になって私たちと戦うんだからぁ!!
……うっ…ひっく……」
なんで言いながら泣いているのかは悪ケミたんにも分からない。
ただ、今のままでは騎士子たんと子バフォがなぜか遠くに行ってしまうような気がした。
子バフォと騎士子たんは頷いて、悪ケミたんの頭をなでてやる。
「約束する。主よ。我は主が捨てても何処にも行かぬ」
「私も約束するわ。貴方が悪の道に落ちないようにずっと邪魔してあげるから」
「…ほんと?」
涙目の悪ケミたんに騎士子たんと子バフォはやさしく微笑んであげた。
「帰ろう。主よ。今日はケーキを街の人からもらったのだ」
「カレーを作ってあげるわ。ごちそうでしょ。なんたって今日はクリスマスなんだから♪」
「わーい♪カレ〜♪ケーキ♪♪」
子バフォが偉大な父の名を継ぎ、騎士子が王国に名を轟かせる勇者となっても二人は必ずダンボールハウスに顔を出したというおとぎ話がプロンテラに広がるのは、またまだはるか先の物語。
あとがきみたいなもの
悪ケミ萌えスレ28-29から。
豪快にプロンテラをフロンテラと書いて恥をかく。
掲示板投稿は難しいと切に感じた一作(笑)