アラームたん「がお?」(なんだろ……これ?)
悪ケミたん「ハインディングって言っているでしょっ!」(がたがたぶるぶる)
そんな微笑ましいファーストコンタクトを生暖かく見つめている親ばか二人。
一人は山羊の化け物。もう一人は山羊の帽子をかぶったプリースト。
結婚指輪よろしく二人仲良くマタの首輪をつけて二人に気づかないように見ているらしい。
「娘よ……同じ血を引いているのなら何故戦わぬ……T-T」
「悪ケミたん……同じ血を引いているならなんで仲良くなれないかなぁ……」
そして同時に互いを見て呟く。
「お主の教育が悪いからだ」
「貴方いったい何をしていたのよっ」
「……」
「……」
二人して互いに武器を向ける。
そして鎌とソードメイスが互いを捕らえようとする前に、
「父よ……義母よ……
後ろ……」
とようやく泣く子バフォに気づいて、二人は時計塔モンスターの皆様に呆れられつつ囲まれている事を悟ったのだった。
「で、色々聞きたい事があるのですが」
時計塔管理人の声が妙に人間臭く聞こえる。そう、笑うのを我慢しているという感じで。
二人は時計塔最上階の管理人室に通されている。子バフォは悪ケミたんを心配してアチャスケさんと一緒に遠巻きにアラームたんと悪ケミたんを見守っている。
バースリーの出したハーブ茶を気まずくすすりながらバフォメットが答える。
「い、いやな。ちょっと人間どもの行動を把握しておく必要があってな……」
「では、その人間のプリーストさんは?」
管理人のつっこみに見事にお茶をこぼしそうになるバフォメット。
「い、いや、その……偶然人間と出会ってな。見ただろう」
「そ、そうなのよっ!『枝を使ってみようかな〜』と私が思ったらあら大変!バフォメットが出ちゃってぇ〜」
急に話を振られたママプリの方もまるで急ごしらえの話に合わせるように上ずったトーンで主張する。
「そうですか。の、割には一時間以上なんで二人仲良く壁向こうのアラームと悪ケミたんを見ていたのですか?」
「うっ!!」(×2)
(どうするのよ?あなたの最初の話だと話が通っているんじゃなかったのよっ?)<ひそひそ
(しょうがないではないか。GHできちんと話をつけて人事異動の折に嘆願書を渡したはずなんだが?)<ひそひそ
(と言う事は、事後確認子バフォに任せて怠ったでしょ!なんであなた最後まで見なかったのよ!)<ひそひそ
「仕方ないではないか!最近人間どもの襲来が激しくて時間が取れなかったのだ!
今回の訪問とてLoD様に頭を下げ、深遠の騎士にシフトを変えてもらい、息子達からは呆れられてやっと実現したんだぞ!」
「私だって、今月はコブリンとデザートウルフとヒドラを孕む予定を全部キャンセルしてここに来ているんだからっ!
悪ケミたんの弁償費、最近威力が上がって増えているんだからねっ!
大体何よ?このバフォ帽子をかぶるとバフォメットに見えるってしっかりばれているじゃない!」
「我に言うなっ!
そもそも『人間を魔族に見せる方法は無いか?』とGH中聞き回って聞き出したんだぞっ!」
「それ……多分騙されていますって……
あと、そちらのプリーストさんの事情も承っておりますからご安心を」
ひそひそ話のはずがエキサイトして全部管理人に聞こえている事にまったく気づかないあたり、「子も子なら親も親」。
とても温和な管理人の声に我に返り、互いに顔を赤めてあさっての方向を向いてまだ互いの脇を突きあう二人。
ひたすら笑いを我慢する管理人だった。
「えっと……大体事情は聞いているんですが……」
とりあえず夫婦漫才はもういいだろうと思って管理人は話を強引に先に進める。
「……たしかにGHよりの人事異動の発令時に、深遠の騎士経由でバフォメット殿の嘆願書は受け取っております」
管理人はそう言って、二人の前にバフォメットが書いた嘆願書を机の上に置く。
その嘆願書には「悪ケミの教育の為に、優秀なる時計塔管理人に錬金術を教えて欲しい」と書かれているはずである。
毎日毎日悪さ(というよりいたずら)をしている悪ケミたんだが、子バフォを通じて話を聞く親ばか二人はそろそろ娘の将来をと考えた訳で。
「今の人間の錬金術なんぞ役に立たん。我は歴史上最も優れた錬金術師を知っておるからそこに悪ケミたんを学ばせよう」
とバフォがさしたる考え無しに言って、どの世のママも最高学府や高位の学者という言葉に反対する事もなく、時計塔管理人に話を通して子バフォが上手く先導して悪ケミたんをここに連れてくる予定だった。
で、そうなると今度は「無事に着くか」と心配になった親ばか二人は悪ケミたんの後をこそこそとつけた次第。
「悪ケミたんを教える事については私に依存はありません。
ただ……」
「ただ?」
管理人の次の言葉に息を飲む二人。一番大事な事を、教えていなかったと激しく後悔する。
「私達を、悪ケミたんがただの魔物と見ない事が大事なのですが」
と。
考えてみればこの二人や悪ケミたんが異端であり、神が去ったこの大地で人と魔族は激しく争っている。
それは互いの生存をかけた争いであるはずだったのだが、人の力の増大につれ人は傲慢に、魔族は余裕が無くなっているのをバフォメットは知っており、
「魔物だから狩っちゃえ」という意識は実は人間の方にこそある事をママプリは自らの体験からも知っていた。
「悪ケミたんもそういう意識があるのかしら……」
人間やっているママプリは心配そうに管理人を見つめているが、
「何、我の娘だ。心配いらぬ」
とのー天気に言ってのける、山羊顔の親ばか一匹。それを見て頭を抱えるママプリ。
「まぁ、心配なのは私も同じなので、見てみましょうか……」
かちゃかちゃと管理人は鏡をいじってアラームたんと悪ケミたんのいる場所を映し出す。
アラームたん「がお?」(なんだろうな……これ???)
悪ケミたん「ハインディングって言っているでしょっ!」(がたがたぶるぶる)
もう、二人が壁向こうから覗いていた時から30分は経っているはずなのだが、事態は何も変わっていないらしい。
あ、若干違うのは画像の中に子バフォが悪ケミハウスの横に、アチャスケがアーラムたんについているぐらいか。
ちなみに、子バフォとアチャスケの二人には手を出すなと命じている。
アラームたん「がおがおがお がお〜(子バフォさん こんにちは)
がおがおがお がおがお がおがおが〜(アチャスケさん この箱 なんだろうね?)
悪ケミたん「ひぃぃぃぃ! ハインディングしているのよぉぉ…私はただの箱なのよぉぉ…T-T」(がたがたぶるぶる)
さらにしばらくして、画像に変化が現れる。
「おおっ!さすが我が娘!!」喜ぶバフォ。
「アンバーナイトみたい……」かつて騎士子が同じ事を言った台詞を呟くママプリ。
悪ケミハウスをかぶったままゆっくりと前進する悪ケミたん。当然前は見えていない。
管理人「あ、壁にぶつかった」
がたがたぷるぷる震えていた箱が壁に当たる。
「ごん!」とかなり景気のいい音が聞こえ、箱の上にぴよぴよと鳥が舞っているようにふらつく悪ケミハウス。
どうやら、壁に頭をぶつけて目を回している(おまけに、箱をかぶって前が見えていない)悪ケミたん。
くるりと回転して別の方向に向かおうとする悪ケミたん。その前方にはアラームたん。
悪ケミたん「子バフォ〜どこ〜〜〜(@×@)」
アラームたん「がお〜!?」(わっ!こっち来るよっ!?)
子バフォ「主よ。もう少し右。
行き過ぎだ。左に戻して。そのまままっすぐ……
アラーム殿動かないで……
主よ!左、左!!」
アチャスケ「馬鹿野郎!アラームにそんな複雑な操作をさせるなっ!
アラーム!右だ右!
子バフォ!お前そっちに箱を寄越すなっ!!」
アラームたんの周りをくるくる回る悪ケミハウス。
こっちに来たから逃げようとして、悪ケミハウスの変幻自在(別の言い方でめちゃくちゃ)な動きに翻弄されるアラームたん。
そして気分はすいか割りか、プロンテラの大通りの交通整理をやっている案内要因のお兄さんかと思いながら必死に悪ケミたんを誘導する子バフォとアチャスケ。
そして事態は突然に終焉を迎える。
悪ケミたんの敗因は悪ケミハウスの箱のふたを出してアンバーナイトをやっていた事であり、アラームたんの敗因はアラームに乗ってバナナの皮を踏むとどうなるか知らなかった事である。
アラームが悪ケミハウスの端を踏んで……
「つるっ!すがしゃああああんん!!」
舞う土ぼこりで鏡に何も写らない。
「アラーム!」
「悪ケミっ!」(×2)
かくして慌てて駆けつける親ばか三人。
土ぼこりの舞う部屋。アラームが倒れた振動で目を回す子バフォとアチャスケ。
そして……
「うわ〜〜〜ん!」(×2)
管理人とバフォとママプリが見たのは、悪ケミハウスとアラームから出て仲良く抱き合って泣いているアラームたんと悪ケミたんの姿でした。
管理人「まぁ……子供同士の出会いならこんな所では……
アラームとうまくやってくれるのであれば大丈夫でしょう」
ママプリ「そうですね。子供ですから。二人とも。
喧嘩は最高のコミュニケーションですわ」
何故か安堵している二人を置いて完全に狼狽している親ばか山羊。
バフォ「何をほっとしているのだっ!ほらっ、悪ケミたんにヒール……えっと泣き止む為には…ミルクか?キャンディか?
子バフォも目を回している暇があるなら起きんか〜〜〜!!!」
その後火曜日の9時から15時にかけて、子バフォと一緒にランドセルを背負って時計塔に通う悪ケミたんの姿を見たとか見ないとか……
あとがきみたいなもの
元々はチェき14歳様の絵(1/22参照)からの電波受信です。
本来ならLiveRO板@にゅ缶のアラームスレに投稿するつもりだったけど、悪ケミあたりと混ぜるのは悪いと思い、萌えスレ小説板に投稿。
そしてプリーストはバフォ帽がかぶれない事を最近になって知る。……やば(滝汗)