「正義を行えば世界の半分を怒らせる」

                         --遥か昔の書物に書かれた言葉より--



「……つまり、このような事態を感化するべきでは無いと?」

 暗闇の中で響く声。

 姿を見せては社会的にまずい高貴なる方々が自分に関係の無い感じの声で確認を取る。

 彼らの手には一枚の結婚式の招待状の写しが手元に来ているはずである。

「左様。本来先の戦からやっと1000年かけて人はその優位を築いたのだ。

 これから始まる人の世には神も魔もいらぬ。

 やつらはそれを分かってはおらぬのだ!!」

「やっと人は神と同じ力を得る事ができた!

 魔を打ち滅ぼした後次なる神との戦の為に、更なる進化と人間勢力の糾合こそが大事というのに!

 国王をはじめ国政を司る馬鹿達はそれが分かってはおらぬのだ!!」

(あんたらもだろ……それをするのはどうせ俺達みたいな下っ端なんだから……)

 末席に座って参加していた一人のクルセは心の中で呟く。

「だが、表立っては反対はできぬ。

 深遠の騎士、今は--アビス--と名乗っていたあの女は魔から人に変わった。

 同じ人として保護対象にある以上我々にはどうする事もできぬ」

「参加する魔族もペットや変化でもぐり込んでいるから騎士団経由での討伐令も出せぬ」

「ならばどうすればいい!!

 人と魔が融和する?互いに種としての力が衰えるだけだ!

 それでは、いつかかならず帰るであろう神との最終戦争に人は勝てぬ!」

 高位に座している誰かが荒々しく机を叩く。

「手はあります」

 その声は、心中で彼らを軽蔑していたクルセから発せられたものだった。

 その声に、その声が持つ意味に皆が気づき黙り、クルセの次の言葉を待つ。

「若輩ながら意見を申し上げるならば、深遠の彼女の件は我々にとっても有益でしょう。

 魔から人に彼女は移った事は我々の行動の趣旨に沿っています。

 深遠の騎士の力が人の力として、次なる人類達に継承されるのは大いに力になるでしょう」

「だが、それでは魔物を狩れと国民を煽って来た我らの立場が……」

「だから、警告は与えましょう。

 幸いかな、今回の騒ぎの現況はポリシーを貫いているらしく、『聖女』と呼ばれていても立つ立場は相変わらず魔のままです」

 誰もが、一人の女の姿を頭に浮かべる。

「彼女を始末しましょう。

 彼女が消える事によって、人と魔の運命の大きな掛け橋を消す事ができます。

 彼女が消えれば、相互不信によって人と魔はまた争うでしょう」

 上座からの声が露骨に皆の意見を代弁していた。

「勝てるのか?バフォメットを沈めた彼女に?」

「戦争は数です。

 指揮を全て一任していただければすぐにでも始めますが?

 次の枢機卿会議も近い事ですし……」

「それ以上言うな。

 全てはお前に任せる」

 椅子から立ち上がる音が聞こえ、立ち去る靴音が暗闇の中で響く中クルセはただ命令受領の言葉を口にしただけだった。

「神の御心のままに……」



「おかえりなさい。師匠。会議はどうでした?」

「俺みたいな下っ端が出れるわけ無いだろ。警備で外の見まわり。眠くなってくる」

「じゃあ、寝るという事で晩御飯は無しでいいですね?」

「まて。こら。ごめんなさい。だからデザートのリンゴとお芋のタルトは多めにお願いします」

 ご飯の事を出すととたんに卑屈になる師匠に思わず微笑んでしまうアコきゅん。

 それも、一人の人として自分を見てくれているという師匠の心遣いである事は分かっていたからテーブルに今日の夕食を並べだす。

「あ、そうだ。

 この後俺の連れが来るから」

「なんでそれを出かける前に言ってくれないんですかぁ……ご飯準備しないと……」

「いや、いいよ。こんばんは。アコきゅん。

 この師匠にいじめられていないかい?」

 図ったようなタイミングでドアを開けて入り口にたむろしていたモンク師匠の後頭部のドアで強打しながら一人のクルセイダーが入ってくる。

「お久しぶりです!クルセさん

 師匠は見てのとおりで……」

 たまらず笑い出すアコきゅんの視線の先には後頭部を強打されてうずくまるモンク師匠。

「てめぇ……気配消してまでする冗談じゃないだろ……」

「ふん。修行不足だな。それぐらい避けれんでどうする?」

「やかましい!てめぇみたいな全自動防御兵器じゃないんだよ!」

「はいはい。漫才はそれぐらいにしてください。師匠。スープ冷めちゃいますよ。

 クルセさん。お茶入れますね」

 台所に慌しく戻ってゆくアコきゅんを見送りながら席につく二人。顔も話もアコきゅんがいる前とはまったく違っていた。

「で、何しに来た、極悪クルセ」

「同期のよしみでお前を誘いに」

「断る。お前とかかわってろくな目に会った事はない」

「聖女狩りだ」

 一瞬時間が止まる。更に声は小さく、口調は冷たくなる。

「例の結婚式がらみか?」

「あれだけ大々的にやれば上も動かざるをえん。

 大体前々から邪魔だったんだ。我々の主義から考えればな」

「だが、勝てるのか?」

「だからお前を誘いに来た」

 何も言わずにクルセを殴りつけようとするモンクだが、モンクの手はクルセの手の中にしっかりと収められていた。

「俺はお前のそういう所が大嫌いなんだよ」

「誉め言葉と受け取っておこう。

 数で押す。聖女とバフォとはいえ百人で押せは沈むだろ。多分」

「百人って、どうやって集めるんだ?」

「教会内部からは30人程度だな。

 困ったことに彼女は人望がある。内通者の事を考えると下手に命令もだせん」

「あとは傭兵か?」

「やつらなら金を払い続ける限り主義主張は問わんからな。

 金は武器商人と盗賊ギルドから出させる。身内と合わせて100人は欲しい

 で、切り札はお前だ。断るか?」

「ここまで聞いて断るほど人でなしでないし、彼女には借りがある」

「おっけい。交渉成立な」

 最も身近で大きい戦争である「魔族狩り」によって武器商人達は巨額の富を得ており、彼女が身を潜めている歓楽街では彼女の人望が歓楽街を支配しているギルドにとって脅威に映っていたからだ。

 後は、集めた兵の編成や歓楽街の封鎖、彼女をどうやって殺すかを話し終えて思わずクルセが苦笑する。

「なんだか砦を攻めているみたいだ」

「何を言っている?実際砦を攻めるようなものさ。

 これだけ準備しても、まだ落とせるか自信がないんだから」

 互いに軽口を叩き合った時にアコきゅんが料理とお茶を食堂から持ってきた。

「何の話をしていたんですか?」

 アコきゅんの問いに二人ハモって答えた。

「砦攻め」




 結婚式終了後 イズルード


 集合場所がイズルードに選ばれたのはいくつか理由がある。

 第一にプロンテラに近く、かといって彼女に漏れないように兵を集結する事ができた点が一つ。

 次にアルベルタから呼び寄せた傭兵が到着するのが一つ。

 最後にプロンテラ南の広場からの人だかりで目ただない事が一番大きかった。

「小隊集結!急げぇ!!」

 船着場に響く声。整列する戦士達。

 やる気なさそうに見えながらさりげなく気配を消して歩くアサシンやローグ達。

 船からまーちゃんやブラスミの手によって下ろされる大量の武器・防具・消耗品。

 イズルードの周りにはカゴメの他に鷹が飛び回り、広場でペコに餌をやる騎士達の姿がいつもより遥かに多く見られた。

「街の上役には何ていった?」

 モンクの問いにクルセが軽口を叩く。

「砦攻め。イベントの定めだな。

 結婚式なんてイベントはどうしても人が大勢集まる日に定めざるを得ない。

 おかげで欺瞞工作すらせずに堂々と集結できるさ」

「砦攻めや守備の傭兵の不足については?

 そこから足がついたりはしないだろうな?」

「砦所持者とは、王様主催の結婚式ゆえ『自重せよ』という勅命をだした。

 砦の所有の推移については内々に決めるようと」

 モンクは唸った。そんな勅命がだせるほどの王ではないし、周りがその勅命を許さない。ならば……

「偽勅か!?大胆な手を使うな……」

「使えるものは何でも使うさ。何しろ王が出るほどのイベントだ。だれもその正当性を疑わん」

「まぁ、いい。

 そろそろ始めるか司令官どの」

 モンクとクルセの周りに指揮官が集まる。

「今回の目的は一人の女プリーストの排除だ。手段は問わない」

「質問いいか?たかが女一人に百人か?大げさじゃないか?」

 アサシンの質問にクルセが冷酷な声で答えた。

「じゃあ、言い直そう。目標はプロンテラの聖女だ。

 確実にバフォメットがついてくる。これ以上の説明はいるか?」

 その名前を聞いて背筋に寒気が走らぬ者等いなかった。

「タイマンでは勝てん。だから数で押し切る。

 前衛2、補助、後裔で四人パーティを作って常に崩さないように。

 パーティ指揮官はギルドマスターに定時連絡をおこたらないように。

 今日のプロンテラは混むぞ」

 無言で頷く指揮官達にクルセはただ一言だけ命じた。

「じゃあ、戦争を始めよう」


 第一陣先頭を任されたパーティ四人がプロ南を降りてゆく。

 後ろに似たような四人パーティがちらほらと。

「ん?……」

 気づいたのはその四人パーティに配属されていたシーフだった。

(本部。こちら先陣、プロ南で誰かが枝祭りか油祭りをやっているぞ!)

(無視しろ)

(無視できるか!ロードオブデスが出てる!!被害者多数!南門に進入できない!!)

 先陣の悲鳴を聞いた瞬間、イズルードにいたクルセは思わす壁に拳を叩きつけた。

「やってくれたな……あのアマ……」

 モンクはこの祭りを企画したのがあのママプリである事をほぼ確信していた。

(第一陣は南門に侵入、この馬鹿騒ぎを止めさせろ!

 第二陣は迂回して西門から侵入しろ!)

 第三陣はワープポータルで直接乗り込ませるっ!)

(だぁぁぁ!!アークエンジェリンぁひゃ…)

(うそぉ!ドラキュラがぁ!メドゥーサが…)

(すげぇ……枝が油か知らないが…ボスが群れてる……)

「ちっ!第一陣はあてにならん!」

(第二陣!第三陣は応答しろ!!)

(こちら第三陣。だめだ。女達が襲ってくる!)

(蹴散らせばいいだろうが!!)

(いや…そっちの意味の襲ってじゃなくて…だから耳元に息を吹きかけるな…ぁ…)

 

(どうした!第三陣応答しろ!!)

「どうやら、歓楽街の女全員を買収でもしたらしいな。

 『お客としてもてなせ』ならこちらも無下に攻撃できないし、足止めになる」

 モンクの冷静な分析に何か言いかえそうとした時に第二陣からの悲鳴が届く。

(こちら第二陣。やられた。聖女がいっぱいいやがる)

(なんだと!?)

(だから、西門広場にいるプリが全員バフォ帽にソードメイス、ロザリーにマタの首輪持っているんだよ!

 誰が聖女だか分からりゃしない!)

「全員ひっ捕らえろぉ!!」

(どうやって!?ここはその気になれば何処にでも逃げれるんだぞ!

 だぁぁぁ!!ミョルニル山脈に一人向かって、下水に二人入った!

 ゲフェンにも向かって…もっと応援よこせぇ!!)

(おいっ!応答しろっ!どうしたっ!!誰か応答しろっ……)

「だめだ。何処とも繋がらん」

 クルセのうめき声にたまらずモンクは笑い出す。

「何がおかしいっ!」

「これがおかしくて何が笑える?負けだよ。この戦」

「まだ負けていないだろっ!!」

「おちつけ。彼女は枝なり油なり道具なり女しか使っていない。つまり金さ。

 こっちが金で兵を集めたと同じく彼女も金でこれだけの仕掛けをしたというわけだ」

「何処にそんな金があるっていんだっ!!」

「忘れたのか?俺達の経済は何を倒すことによって成り立っている?」

「……」

 冷静になったクルセも気づいた。

 彼女はその気になれば我々より遥かに膨大な金を用意できるという事を。

「あと一つ気づいているか?」

「……ぁぁ。待機させていた本陣の連中の声が聞こえん」


「兵を分散して本陣を急襲、各個撃破。兵法の基本よね」

 軽やかな声と共に、二人にとっての魔王が現出した。



「……生きてるか?」

「なんとか……」

 クルセは彼女が出てきて剣を抜いたと思ったら背後から飛んできたスポアブーメランに後頭部を一撃海に叩き落された。

 背後にバフォ帽をかぶった騎士がスポアを持って決めポーズしていたから多分間違いないだろう。

 モンクは残影で逃げようとしたが、彼女にレックスディビーナ一発。クルセと同じくスポアにぶっとばされて海に叩き落された。

「おめでたい日だから殺しはしないわ。少しは反省しなさい」

 凛々しく勝ち台詞を吐いて堂々と去っていく彼女の姿を見て二人して思った。

「負けたな……」

「負けだな……」

 よく見ると、待機させてた本陣の連中はみな海に叩き落されていたらしい。あちこちで二人と同じように溺れている。

 何よりも完膚なきまでに、無様に負けた。しばらくは戦う気にもならない。

 なんとか全員岸に這い上がって体を乾かす。

「上にどう報告すりゃいいんだ?」

 頭を抱えるクルセにモンクは投げやりに言い切る。

「しなくていいだろ?どうせあの女の事だ。そこまで手を回している」

 言いきるモンクにたまらず笑い出すクルセ。

「じゃあ、何か?俺達は彼女の手のひらで踊っていたというのか?」

「そりゃもう完膚なきまでに」

「強いな……」

「そりゃそうだろ。彼女一人で彼女が望む世界を支えているんだ。

 彼女に勝つにはその世界を壊すだけの意思がないと勝てんよ」

「モンクよ……

 なんでそれをもっと速く言わんのかぁぁ!!」

「言って止めるたまじゃないだろぉぉ!この性悪クルセぇぇ!!」

 ずぶ濡れで笑いながら殴り合いをするモンクとクルセの二人を、回りの人間は怪訝な視線で見つめて無視することに決めた。



 

おまけ

 

ママプリ「なんでこんなに請求書が来ているのよぉぉぉぉ!!!(><)」

バフォ 「……自業自得だろ……」




あとがきみたいなもの

 参考文献 まず「 【18歳未満進入禁止】みんなで作るRagnarok萌えるエロ小説スレ 六冊目【エロエロ?(*ノノ)】 」のAbyssたん(*´Д`)ハァハァ 様の作品群をお読みする事をお勧めします。

 バフォが文中で使った「スポアブーメラン」は「ラグドット」さんのとこで貼られていたのに一目ぼれしたものです。

 私は知らなかったのですが、そのレスにあった発祥の場所も貼っておきます。


「あふぉらいと」

ttp://afolyte.hp.infoseek.co.jp/index.shtml


 当初は、Abyssたんの幸せを望まない勢力が送ったクルセをママプリとバフォが止めるというどっちかといえば燃えな話でした。

 それがこうなったのは、これを書いている途中で金曜ロードショーを見てしまった事でしょう。

 あちこちからネタぱくりまくっています。(ごめんなさい)


 最近は小説スレに多くの人が来て嬉しい限り、で、自分の文才の無さにちょっとしょんぼり。

 これからも月2のペースであちこちに駄文を出せたらいいなぁと思っていたり。

 ママプリ使ってくれるのなら、できるだけお返し駄文を送りつけますから……