「にゅ?」
背後から、凄く聞きたくない声が聞こえてきた。
ここはGH。人と魔族が己の命と名誉と欲望をかける世界の園。
背後の剣戟も飛び交う大魔法も戦場の嗜み。いつもと変わらない日常。
それに変化が生じている。
いや、変化などという生易しいものではあるまい。
壁の一面が黒い。いや、元々GHは闇なのだが、たとえて言うなら夜出したゴミ袋ぐらいに黒い。
最近は透明袋が広がっているから古着等は細かく切っておかないとあの二人あたりが漁りに来るので要注意。
閑話休題したがとりあえずそのゴミ袋みたいなのものを私は思いっきり掴みあげた。
「にゅう〜〜〜〜〜!!」
じたばたするゴミ袋もどきを掴んだまま、私は日常が変わるうめき声を聞きながらため息をついたのだった。
『しんぶちたん』
「ついてきたら駄目って言っただろう!!」
「にゅ……だって……」
GH秘密の控え室。見物高い魔族達に囲まれて私はごみ袋に説教をする。
当然、しゃべるゴミ袋等では無く私の妹だったりする。
身長など私の1/3しかないくせに私のマントを着て、ぶかぶかの兜をつけて私の後をつけてきたという訳だ。
そりゃ、ゴミ袋にしか見えない。
「いい?私は遊びでここに来ているんじゃないの。
お仕事でここに来ているんだから、ついてきちゃ駄目って言ったでしょ!」
「やだやだやだぁ!わたしもおねーちゃんと一緒にお仕事をするもん!」
「馬だって乗れないくせに!剣も持てないでしょ!」
「馬だって乗れるようになるもん!剣だって持てるもん!!」
そう言って私が持っていた剣を持とうとして……そのまま固まる妹。重くて持ち上げられないのだ。
「もてるもん……もてるんだもん……」
気まずい空気の中、第三者のまったく空気の読めない声が響く。
「おおっ!剣のっ!これが騎士殿の妹者かっ!」
「そうみたいだな弓の。見よ!全身から萌えがみなぎっているぞっ!!」
「そのまま萌え尽きてしまえっ!!」
とりあえず、剣と弓の二人をBdsで沈めておく。
どくじゃからんと音を立てて床に骨を散乱させる二人。これぐらいでやつらが消えるとは思っていないし、いや、消えてくれたら私としてもかなりうれしいのだが。
「どうした!警備が手薄になって……」
と入ってきて怒鳴りつけようとして、妹を見て途端に好々爺の顔を見せるカーリッツ老。いかん。老人はとにかく子供に弱い。
「おじいちゃん……持てないの……」
「よしよし。わしが手を貸してやろうかのぉ。たしか人間どもが落とした『ひとくちケーキ』が……」
「カーリッツ老!警備の件で来たんでしょう!!」
「あ、構わん構わん。どうせ人間どももここを落としに来ている訳ではないのだから少しばかり休憩してもよいじゃろう」
「そんないいかげんな……」
「あぁぁぁぁぁっ!!深淵様の妹様ぁぁぁ!!」
ずさぁぁぁぁ!!とドムなみの床走行で休憩室に現れた「GHの夢見るメイド」もとい「GHのアイドル」アリス。
なぜか知らないが、最近なつかれて困る。
「すっごい可愛いですぅ♪ああ、深淵さまの面影がこのっていますね」
私の苦渋に満ちた顔を見た妹はにこりと微笑む。
やばい。あの笑みは悪戯を考えたときの笑みだ。
「みなさまこんにちわぁ。しんえんのきしのいもうとですぅ。
きょうはおねーちゃんのおしごとをけんがくしたいとおもいやってきましたぁ♪
よろしくおねがいしますぅ」
ぺこりと皆に頭を下げる妹。勝負はついた。
かくして今日一日、私は妹の面倒を見ることになった。
流石にGH最前線は危険という事で今日の私は枝勤務という事になった。
要するに人間どもが使う枝に呼ばれる為の待機役だ。
まぁ、枝で呼ばれるのはランダムなのではやい話待機という事だ。
何故かというか、当然と言うか剣・弓二人とアリス、カーリッツ老もついてきてのGH外壁散歩という事となった。
「にゅう♪お馬さんだぁ」
「気をつけろよ。こいつは時々後ろにいるやつを蹴るからな」
私の言葉に何故かひそひそくすくす笑う同僚達。
「な・に・をはなしているのですか?」(にこり)
「いいえ何も」(×4)
仲良く首を振る四人。まるで申し合わせたかのような動きで凄く不愉快だ。
「ほら。私の背中に掴まれ」
「はぁい」
よいしょと妹が私の背中に捕まる。
「おうまさん。おうまさん。わーい♪」
「はしゃぐんじゃない!馬が驚くっ!」
照れ隠しの為、大声で叫びながらすごくゆっくりと私は馬を前に進めた。
かっぽかっぽと闇の中、私達6人の珍道中が続く。
揺られてはしゃぐ妹。
その姿に萌え転がる剣と弓。
ひそひそ話しながらくすくす笑う、アリスとカーリッツ老。
顔は不機嫌だけど、心のどこかで「悪くないかも」と思う私。
だが、そんな散歩も不意に打ち切られる事になる。
「ほう。こんな所にも魔物が沸くか」
目の前に不意に現れたのはベコに乗った人間の騎士。テレポートで跳んだ所に私達がいたという事だろう。
私達を見てベコを突進させる。
「剣の」
「弓の。分かっている援護を」
「お下がりください。ここは防ぎます」
「深淵さま。お引きください!」
皆が私の前に立ちはだかり私を守ろうとする。
私も手綱を引っ張って後方に下がろうとした。
「にゅうっ!」
それを拒否したのはぎゅっと背中にしがみつく妹。
背中越しに震えながら一生懸命恐怖と戦いながら妹は私にだけその決意を告げた。
「だめ。いっしょにたたかうの」
騎士は敵に背中を見せてはいけない。
守るものを守るために戦うこそ私は騎士なのだから。
「しっかりつかまっていろ!」
「にゅう!」
私は馬を駆ける。前に。
「来いっ!深淵の騎士よっ!」
「どけぇぇぇぇぇぇえ!!!」
互いにすれ違いに一閃。
倒れたのは人間の騎士だった。
「眠ったか?」
「ええ。ぐっすりと。泣きつかれたのでしょう」
休憩室から出てきたアリスは私に微笑む。
あの後恐くなった妹が急に泣き出し、みなであやすのに一苦労だったのだ。
いずれ、妹も私みたいに血で汚れる事になるのだろう。
分かってくれるのだろうか?
私の返り血はこのGHを守るためという事を。
このGHの皆を守るためという事を。
「分かってくれるじゃろう」
心配してアリスと共に妹をあやしていたカーリッツ老が私の心を読んで笑った。
「幼くとも騎士は騎士じゃ。
何より、彼女は逃げなかった。
お主と同じぐらい、よい騎士になるじゃろうよ」
そう言って寂しそうに笑うカーリッツ老。
皆、言わない事がある。
そう。妹は戦う定めにある。この人と魔族が争うかぎり。
それは定められた運命。
「できれば……」
ぽつりと出た言葉を飲み込む。言わなくてもこの二人には伝わっただろうから。
「おおっ!騎士殿の妹者の寝顔げっと」
「ライドワード製パソコンに保管とは流石だな!剣の!」
「何を保存しているかぁぁぁぁぁ!!!」
とりあえず、剣と弓の二人をBdsで沈めておく。
(できれば……妹が騎士となった時には、戦う事無いように……)
その私の願いを知る事無く、妹はすやすやと眠りについていた。
あとがきみたいなもの
【GH】深淵の騎士子たんに萌えるスレ【騎士団】 で今話題のしんぷちたんを早速ネタに使ってみました(ごめんなさいっ)。
そのスレはこちら