「ただ聞いているのは月しかなかったので」
ラジオを買ってみた。
少ない小遣いをやりくりして秋葉が来ても隠せるぐらいの携帯式のラジオ。
あいもかわらずのお祭り人生だけど、ちょっとだけ自分が失ったものが見てみたくなっただけなのかもしれない。
ラジオから流れてくる切ない音でふと昔を思ってみた。
あの出会いから二年。その事がどれだけ遠野志貴の人生を変えたのだろうか?
そんなことを思うのはきっと月がとても綺麗だからだろう。
窓から漏れる月の光。その光は暖かくも冷たくもあった。
ラジオというのは不思議なものだ。一期一会なのだから。
気に入った音楽が流れてきてもそれを聞き返すことはできない。とりかえしのつかない人生のように。
だから気に入った曲を見つけたら逃さない。いや、逃してはならない。
自分が後悔をしたくないのならば。
ラジオから流れているのは痛い歌。
自分の人生が間違っていなくてもそのために決定的な何かを失った者たちへのレクイエム。
「…さんのリクエストでした。
彼女は夢が叶って、そのお礼を何よりも自分に捧げたくてこの曲をリクエストしたそうです。
何よりも辛いものも苦しいものも一緒に越えた自分を誉めたくてこの曲をリクエストしたそうです。
その心があるならば、どんなに苦しい事が起こっても絶対大丈夫。がんばれ……」
リクエストした本人だけじゃなく、同じ境遇の人や現在苦しんでいる人全員にその言葉は伝わる。
夜の闇。聞いているのは俺と月だけ。
ラジオから流れる静かなピアノはあまりにも似合っているからふいに切なくなる。
アルクェイド、シエル、秋葉、翡翠、琥珀、弓塚、レン、有彦、先生……
多くの人生に触れ、多くの人生に関与した。正しいか間違っているかなど関係ない。
それがすごく重たく感じることがある。
それが、幸せであるという証であっても。
がらにも無いことだろう。それは俺自身が一番思っている。
ただ、たまたま流れた音楽が何かを変えるきっかけにもなる。
おそらく、数少なく残された魔法。それが音楽なのかもしれない。
そんな魔法に俺もかかってしまったのしれない。
悪くない。誰にも明かすことの無い俺だけの秘密。
ラジオのスイッチを切った。
静寂の中照らされる月明りにゆっくりと別れを告げる。
明日からの日常に戻るために。
ただ聞いているのは月しかなかったので、何も変わらない日常が始まる。
ほんの5分程度の魔法の時間は永遠に銀色の光の中。
なんとなく久しぶりの月姫SS。相変わらず二時創作は難しい(何でもかんでも難しいといっているような気がする私…(汗))。
実は、とある掲示板を見て、とあるフラッシュを見て、そのフラッシュに流れている曲がこれまた見事にストレートだったわけ。
何がこうなったら、ここに繋がったのかはまあ、気にしないように(笑)。
ありがとう。レンちゃん(某ゲームのPL名)。いいねた提供してくれて♪
ちなみに、著作権なんたらのこともあるのでネタ先だけ提供。
本当は歌詞にあわせて志貴に独白させたかったな……
http://check-it.org/14/flash/arigatou.swf